SMダイエット



同期のウエノくんは、とても体重を気にしています。
特に目立ってブーちゃんなわけでもなく、ちょっとお腹でてきてるのかな?という程度なのですが。
痩せたい、痩せたいと言いながら、平日のお昼、会社の食堂で彼は、いつもヘヴィなメニューを選んでやってきます。
そして、ご飯をチョロリと残したりして、「炭水化物は減らした方がいいよな。これだけ残せば少しは痩せるやろう。」などと、うれしそうに言うのです。
また、いつもより選んできたものが少ないな、と思うと、食べ終えた海老天のしっぽにいつまでも未練を残していじりまわしてたりします。
またあるときは、たまに休日明けなどに、「昨日プールで泳いできたから結構痩せたかな。」などと、ニコニコして言うのです。
たいへんおもしろいやつです。


そこで、真性Sなぼく(名前はMなのに)は、


「おっ、今日もよく食べたな。
 残念なことになー、カツ丼っちゅうのはカツ+とじ卵っちゅう超高カロリー高たんぱくメニューなんや。
 ごはんをそれだけ残したとしてもせいぜい50kcal程度や。
 少なく見積もっても1000kcal近くは行ってるわ。
 さらにこの牛肉と豆腐入りの煮物で250kcalは行ってるやろう。
 成人男子が1日に摂取しなければならないエネルギー量は2000〜2500kcalとされてるから、ぼくらみたいに身体動かさへん仕事で、身長165cmのウエノくんやと今ので1日に必要なカロリーの半分以上を摂ってしまったわけや。
 やばいな、もう夜ほとんど食えねーぜ。
 しかもさっきも言ったようにカツ丼とこの煮物っちゅうメインばっかりのメニューは脂肪とたんぱく質の取りすぎや。
 取りすぎたタンパク質っちゅうのは吸収されずに排出されてしまうんや。
 排出物に分解されるときには当然肝臓、腎臓に結構な負担がかかる。
 その上、そのときに水とカルシウムを大量に消費するんや。
 見たところ、このメニューではカルシウムはあんまり摂れてへんなあ。
 カルシウム不足は、骨が弱くなったりイライラしたりっちゅうのもあるけど、高血圧とか糖尿病を引き起こしたりすることもあるから要注意やで。
 あとな、脳みそが働くときのエネルギー減っていうのはブドウ糖だけやねん。
 脳が働くためのブドウ糖っていうのは、主に炭水化物から分解して摂ることになるんや。
 ぼくらみたいな頭使う仕事はむしろ炭水化物とらな、脳がヘタってもて働かれへんで。
 まぁとにかく食事はバランスよく栄養を摂るのが大事やっちゅうことや。
 太るのは健康な証やし、痩せるよりはずっと良いで。
 太りすぎはゆっくりと病気に近づくだけやけど、痩せすぎは即死フラグ立ってる恐れがあるからなー。
 おいしいもの食べてストレス解消できるんならその方が健康的やと思うで。」


などと、専属栄養士のように食事指導をして励ましてあげるのですが、ウエノくんは期待通り、「えー、マジで!?」と、おもしろいようにヘコんだリアクションをしてくれます。
でも彼は次の日も変わらぬ食生活を送り、たまの休日にジムへ行って痩せた気になって帰ってくるのです。
そして、ぼくがメニューを指摘するたびにビクッとしたり、ヘコんだりするのです。


たぶん彼は真性Mです。
とてもいいやつです。


彼には数々の伝説があるのですが、それはまた、機会があれば。