虫けら以下



部屋の壁にゴマほどの小さな虫を発見しました。


虫はあまり好きではないので排除しようと考えました。
ただ、小さすぎるので捕まえて外へ放るということはできそうにありません。
かと言って、虫とは言え生きているものですから、無下に殺してしまうのもどうかという気もします。
しかし、部屋に虫がいるというのはどうにも落ち着きません。


そんなことを考えながら見つめている間中、その虫はじっとしたまま少したりとも動きません。
そのうちにこれは果たして本当に虫なのだろうか、という疑惑すら湧き上がってきました。


前にも同じ場所にこいつは居たような気がする。
ひょっとしてずっとここに居なかったか?
同じ場所に居すぎて石の様になってしまったものかもしれぬ。
もしかするとこいつはずっとここでじっとしているような種類のモノなのじゃないだろうか。
ことによると、どこかの神様の化身などということも考えられる。


そのようなことを考え出すと、目は視力を失い、どんどん妄想の世界に曳きこまれていきます。
いけない、いけない。
ここで放っておいて、もし繁殖してしまったら。
考えるだに恐ろしくて身震いします。
やはり夜安心して眠れるためにもここでこの虫を排除せねば。


迷いを吹っ切り、殺意を込めた目でその虫を見つめなおすと、その途端、それを見計らったように、今そうするのが当然であるが如く、その虫は飛び立って何処かへ行ってしまい、後には何もない壁がどこか不自然な佇まいを感じさせるのみでした。


虫にすらおちょくられる始末。