ミステリアスセッティング / 阿部和重



ミステリアスセッティング

ミステリアスセッティング



本の帯には、「2011年の『マッチ売りの少女』」と謳われていますが、確かに「純粋な少女にまつわる悲劇を奇跡というファンタジーで彩る」という点で共通しています。


主人公は、自らが音痴であることに気づき、それでも歌と共に生きたいと吟遊詩人になることを夢見る少女シオリ。
気が弱く傷つきやすい、非現実的な夢を追う少女。
人とのコミュニケーションが苦手だが、人を信じて騙され易い少女。


現代を生きるマッチ売りの少女の悲劇は、ヴァーチャル世代を象徴するようにどこか現実感が感じられず、しかし、物語の最期の瞬間には、やはり現実はそこにあるのだ、と言わんばかりに心を打つものが痛切に襲ってきます。


マッチ売りの少女の悲痛な声に耳を傾ける者が居ませんでしたが、その物語は確かに読み手の心を揺さぶるのであり、それはケータイやメールを通したヴァーチャルなコミュニケーションがはびこる現代でも、同じことが言えるのです。