心意気

ミルを購入しようかどうか迷っていました。


ミルというのは、日本人に不足しがちなカルシウムを豊富に含んだ、ココアみたいな健康麦芽飲料のことです。
それはミロです。
もう世の中のオシャレさんは皆オープンカフェでミロを飲めばいいんです。


そうではなくて、ミルというのは、乳酸菌たっぷりの…違います、それはミルミルです。
そう言えば、ミルミルは製造中止になってしまったのですね。
これからの子供たちはミルミルを知らずに育ってゆくわけです。
何やら寂しいものがあります。
でも子供たちにはミロを飲んで元気に育っていって欲しいものです。


いや、そうではなくて、ミルというのは豆を挽く道具のことです。
コーヒーにしても、胡椒にしても、やはり挽きたてというのは香り高く、美味しく感じられます。


以前はうさぎ型の胡椒挽きを使っていました。
耳の部分を握ると胡椒が挽かれて出てくるというおもしろいアイテムで、何より片手で挽けるというのが大変便利なのでした。
さらにマグネットが付いていて、キッチンの手の届きやすいところにポチっと付けておけるので大変重宝していました。
胡椒を使い切って、詰め替えようと思ったのですが、蓋を開けるようなところも見つからず、詰め替えはできないのかな?と思っていました。


仕方なく、近所のスーパーでミル付きの胡椒というのを買ってきました。
これは、通常のスパイスなどのような小さなセラミックの容器に胡椒が入っており、蓋の部分にミルがくっついているという代物です。
このミルつき胡椒を使い切ってしまい、詰め替えようと蓋を開けようとしたのですが、この蓋が開かないのです。
蓋の大部分がミルとなっており、回転するようになっているので、ここを回しても蓋は開きません。
ミル部と容器部の間の固定された部分というのが、ほんの僅かしかなく、力がなかなか伝わらないのです。


諦めの思いがぼくの脳裏を掠めたとき、一つの考えが思い浮かびました。
「ビンの蓋が開かなくなったときは蓋に輪ゴムを巻いて滑り止めにするとよい」
おばあちゃんの知恵袋です。
さっそく輪ゴムを蓋の固定部分に巻きつけようとしました。
しかし、蓋の固定部分は水平ではなく、下に向かってすぼんでいく形状をしており、輪ゴムが下へ下へずれていってしまうのです。


ダメか!?
しかし、そのときぼくは、挽きたての胡椒に向けて不退転の決意でいくつかの輪ゴムを手に取りました。
そして、先の輪ゴムを足がかりに、その上へ、その上へ、と輪ゴムを巻きつけていったのです。
獲物の身体に巻きついた蛇のように蓋部分を覆う輪ゴム。
そこにぼくは手をかけ、力を込めると、蓋は呆気ないほどその抵抗を失い、あっさりと開いてしまいました。


ありがとう、おばあちゃんの知恵袋!
感動した!


…と書いていて、何の気なしに空っぽのうさぎ型胡椒挽きを見ると、側面部分に気になる部分を見つけました。
触ってみると、果たしてスライドドアのように扉が開いたのでした。


なんだよ!
こっちも詰め替えできるじゃん!


ぼくは今日、胡椒挽きから諦めない心を学びました。